今週予定している「数学ガールの特別授業」について考えていること

今週予定している「数学ガールの特別授業」について考えていること

今日の早朝活動は、いま書いている本の第4章を読んでいました。ざっと全体を読み返して、節の構成を少しいじってから、調べものを少し。そして頭に戻ってしっかりと固めていく作業をしていました。

手書きでスケッチしていた図版をTikZで清書していました。図版は大抵とても時間がかかります。今回も1つのパターンを作るのに1時間ちかくかかっていましたね。

ただし、図版はプログラマブルにしているので、後から修正するときに一環した変更ができるので、それはそれで結構なことです。また、今回の場合は、いちどに10以上の図版をを作ることができるので、それもいいですね。そのためにプログラマブルにしているわけですけれど。

今日のおさらいをしましょう。

今日の午前中は今週予定している「数学ガールの特別授業」の準備をします。これは、クローズドな講演会で、私にとっては随分久しぶりのことですね。数年ぶりでしょうか。

スライドは100枚ぐらい作る予定ですが、現在は80枚位書いたところですね。今日の午前中で、スライドが作り終わって、リハーサルをしたいところです。

私が講演会をするときには、アドリブで喋ることはほとんどなく、前もって文章を全部作るのが普通です。もちろん、実際に話すときには、自然とアドリブになってしまう部分はどうしてもあるのですが、それはごく一部分であって、本筋はすべて前もって文章として書くように心がけています。

1つの理由は、話している最中に立ち往生してしまうのが嫌だからですけれど、もっと大事な理由として、話す題材について、自分がきちんと考えておきたいからです。私にとって文章を書くことは、それについて考えることとほとんど同じ意味ですから。

講演会で難しいのは、その日初めて会う人に向けて話さなければならないという点ですね。もちろん、事前に様々な情報を運営の方から聞いて準備をするのですけれど、かなりの部分は自分の想像で補って準備する必要があります。

「読者のことを考える」というのが、文章を書くときの原則だとすると、「聞いている人のことを考える」というのは、講演をするときの原則であると思います。もちろん、これは「相手のことを考える」という愛の原則のバリエーションの1つになります。

その意味では、初めて会う人に話をするのは、とても難しいことだとよくわかります。相手のことを考えるつもりで準備するのですが、そもそもその相手が誰だかよくわからないわけですから。

しかし、よく考えてみると、相手の方も私に会うのは初めてなので、そこに手がかりの1つがあるといえます。つまり、もしも私に不安な点があるならば、相手も同じようなところに不安を感じているかもしれないという点です。面白いですね。お互いに会ったことがないという意味で共通点が生まれるのですから。

でもこれは大事なことです。また、講演自体の構成にも大切な影響があります。それは、自己紹介をどのようにするかにつながってくるからです。

さて、今回の特別授業は、講演会としてのお仕事になるわけですが、私はできるだけ右から左へと「処理する」形にはしたくないと思っています。どういうことかというと、「せっかくの機会なのだから、自分が考えたいことについて考えてみよう」のように捉えるという意味です。

抽象的ですね。

つまり、自分が知っていることを手際よく処理してお話ししようという気持ちになるのではなくて、「この題材について、私は本当にわかっているんだろうか」という気持ちで準備するということです。

別の言い方をするならば、たとえよく知られている話題であったとしても、そこに自分なりの発見を(それがどんなに小さなものであれ)盛り込むことはできないだろうか。そのように心がけたい。

それと同時に、もう一つ、メタな視点も持ちたいと思っています。それはどういうことかというと、今まさにこうやって話している内容のことです。特別授業(講演会)の内容そのものについて考えるだけではなくて、自分の仕事の進め方についても考えるということです。

私は今回の講演会をどのように捉えているのか。講演をするというのはどういうことなのか。自分はどのような特別授業にしたいと思っているのか。そこで大切なことは何か。なぜそう思うのか。それは具体的に講演の内容にどう反映されるのか。そういった「メタな視点」を持ちたいと思っています。

そんなふうに考えるのは私はとても好きなんですが、それは同時に時間を有効に使うという意味も持っています。

もしも講演会をただの収入源だと思うなら、手っ取り早くこなして、右から左へ処理するのが効率的でしょう。できるだけ短い時間で準備すればするほど生産性は良いことになります。

しかしながら、私はそれを求めているわけではありません。私はもっと豊かな時間を持ちたいと思っています。講演会の準備をするためにせっかく時間を使うのですから、その時間が最大限に生きるように、多重の意味を持たせたいのです。

収入源の1つでありながら、新しいことを考えるきっかけでもあり、また自分の作業の進め方について思いを馳せる機会でもある。

そんなふうに考えているのです。

2023-08-02 06:09:39 +0900

この文章は、音声入力を利用して結城浩のマストドンに投稿したものです。

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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