執筆作業におけるプリントアウト、赤ペン入れ、ファイル反映の実際について

執筆作業におけるプリントアウト、赤ペン入れ、ファイル反映の実際について

昨日は、第6章の中盤戦といったところでした。昨日は特に、こまめにプリントアウトをして赤ペンを入れてファイルに反映する作業を何回も繰り返していました。こういう作業は、結構好きです。

先日プリントアウトして構成するために、やや厚めの紙を購入して使っていました。今までは普通のコピー用紙を使っていたんですが、心待ち厚手の紙を使ってみたのです。

プリンターとの相性が悪いのか、普通のコピー用紙だと熱か何かのせいでカールしてしまうことが多くて、赤ペンを入れるのに苦労することが多くありました。厚手の紙を使えば、それがだいぶマシになるかなと単純に考えたんですが、大体思惑通りに行きました。カールしなくなったし、赤ペンを入れやすくなりました。

厚手の紙は普通のコピー用紙よりも、値段が高いんですが、それほどたくさんプリントアウトしまくるわけではないので、まずまず許容範囲かなと思っています。

赤ペンを入れるときに使う筆記用具は、普段は3色ボールペンを使うんですが、昨日は買ったばかりの万年筆を使ってみました。カクノです。力をあまり入れなくてもすらすら書けるので、なかなか良いです。

普段はPDFを読んで、そのまま原稿を書き進めたり、修正したりするんですが、なかなか進まないときには、こんなふうにプリントアウトをして赤ペンを入れます。画面とキーボードだけで編集作業をするのと、紙と赤ペンを使って編集作業をするのとでは、気分がずいぶん変わります。どちらが良い、どちらが悪いというのではなく、気分を変えることが大事だと思っています。

テキストエディタを使えば、検索することで、目的の場所に瞬時に移動できます。それはもちろん大変良いことですけれど、それが仇になる部分もあります。思ったところに瞬時に移動できるので、あちらこちらを少しずつ修正してしまうからです。今描いている最前線に集中できなくなるということですね。

今書いている原稿全体は、もちろん自分の大きな関心事ですから、気にし始めるとあちらもこちらも修正したくなってくるのです。

その点、いったんプリントアウトして紙に向かって赤ペンを持って修正するとなると、あちこち瞬時に移動するわけにはいかず、現在見ているそのページ、その1枚に集中することになります。それがとても良い効果を及ぼす場合があるのです。

そのような編集作業の特性を理解していると、プリントアウトした紙を有効に活用できるようになります。つまり、全体をいっぺんに扱うのではなくて、現在見ているその1枚でできる限りのことをやろうと意識を向けるのです。

もちろん、それとは別に、全体をパラパラ見たり、分量を体験的に把握するためにもプリントアウトは有効ですが、昨日の作業はそうではありませんでした。プリントアウトして得たその1枚に集中する時間をたくさん持ったのです。それはそれでなかなか幸せな時間でした。

1枚に集中するときに、陥りがちな失敗があります。それは、自分の頭の中に情報を残したまま走り書きでメモしてしまうという危険性です。プリントアウトを読んでいると、自分の頭の中にアイディアが浮かんできて、走り書きしたくなることがあります。それはそれで悪くありません。しかしながら、走り書きで終わらせるのはあまり賢明ではありません。端的に言うと、後から読み返したときに意味がわからないことがあるからです。

思いついたアイディア、走り書きで書きとめた上で、きちんと、文章の形で紙の上に残しておく意識はとても大切です。そのときに心がけると良いのは、「この赤ペンを入れた紙を原稿のことがよくわかっている人に手渡しても、ちゃんとファイルに反映することができる」と、そのようなつもりで書くということです。このような心がけで赤ペンを入れるならば、自分が後でファイルに反映するときに困ることはほとんどありません。他人に渡すつもりで赤ペンを入れる。これは良い心がけです。

いつもタイピングをしていると、手書きがもどかしくなることがよくあります。こんな文字を一つ一つ書いている時間があったら、キーボードに向かってさっさとタイプすれば良いのではないかと思うからです。そこも考えどころです。

確かに大量の文章を入力するならばタイピングしたほうが早いでしょう。しかし今やっているのは、そういうことでは開きません。絵理香に向かってややこう着している状態を打開するためにプリントアウトし、この1枚に向かっているのです。

ですから、走り書きしたくなったときや、プリントアウトを捨ててテキストエディタに向かいたくなったときには、ぐっとこらえて、わざと丁寧な文字を使って文章を書くことは有効です。実は、そのようにして丁寧に文章を(あるいは文字を)書いていると、不思議なことが起きます。不思議なことというのは、全く違う次元のアイディアが浮かんでくる場合があるということ。

おそらくそれは、手が文字を書いている間暇になった頭がさらに深い探索を始めるからじゃないかと思います。手が、文字を書いている間、頭は内容を考えてくれるのです。こんな並列作業が可能になるのです。

この表にして赤ペンを入れた紙を見ながら、今度はファイルに入力するわけです。このときには、2つのアクションがあります。1つは、そこに書かれた赤ペンによる指示をそのまま機械的にファイルに反映させようとするアクション。これは、先ほど自分がやっていた他人に見せても大丈夫なように丁寧に指示をかけているかどうかを確かめる意味合いもあります。

そしてもう一つは、新しくさらに生まれたアイディアをしっかりと書き留めるアクション。テキストエディタに向かっていると、紙に書かれていない指示や修正を頭が思いつくことがあります。それもまた大切な内容を含んでいることがあるので、素早くキーボードでメモしておくのは有効でしょう。

このようにして、プリントアウトと、赤ペン入れと、ファイル反映のセットを何回も繰り返して、文章を書き進めていきます。そこには、自分というデバイスを使って執筆作業を行うためのプログラミングをしている感覚があります。そしてそれは、私にとって多重の喜びを与えてくれる活動になっているのです。

 * * *

朝の散歩をしながら、そんなことを考えていました。

この文章は、iPhoneの音声入力を使ってリアルタイムで入力しているものですから、あちこちに変換がおかしいところや文章がねじれている部分があると思いますけれど、どうかご了承ください。

今回の話も、加筆修正の後に、いつか私のメールマガジンで読みものとしてまとめたいと思っています。

いつも私の話を聞いてくださりありがとうございます。

2023-08-30 06:10:36 +0900

この文章は、音声入力を利用して結城浩のマストドンに投稿したものです。

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結城浩(ゆうき・ひろし) @hyuki


『数学ガール』作者。 結城メルマガWeb連載を毎週書いてます。 文章書きとプログラミングが好きなクリスチャン。2014年日本数学会出版賞受賞。

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